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  • 執筆者の写真Masao NAKAMURA

Wilderness Risk Management

更新日:2020年4月15日


今回は Wilderness Risk Management Japan:WRMJの主たるテーマである

リスクマネジメントについて思うところを記してみます。 長文になりますが、よろしければお付き合いの程を…。


【リスクマネジメントの目的】 リスクマネジメントの目的は、ただ単にリスクをマネジメントすることに留まらず、

そうすることによって「何か」を達成することにあると考えています。


この「何か」は組織や個人によって異なりますが、

Wilderness Risk Managementであれば、野外(≒wilderness)における諸活動を最後まで遂行することがこれに当たると思います。


望ましくない事象を避けること、望ましくない事象に至った際のダメージを軽減すること、 どちらもWRMを進めていく上で重要なことです。


でもこれはあくまでも中間目標のようなもの、

それを踏まえての「諸活動の遂行」が最終ゴールだと思うのです。

リスクマネジメントを進めていく上で大切なことは、

望ましくないことが起こる可能性を予見して備えるだけでなく、 組織として個人としてリスクをマネジメントすることで 何を得たいのか、どうありたいのかも含めて考えていくことではないでしょうか。



【パフォーマンスの変動を許容する】 work-as-imagined(行うことが期待された作業:WAI)と、work-as-done(実際になされた作業:WAD)という用語は、人間工学の分野でよく使用される表現で、両者の間には大きな違いがあり得ることを指摘する際に用いられるものです。


綿密な作業計画、詳細にわたる指示、手順遵守の徹底など、これまでの安全対策にはWAIとWADを完全に一致させることが重要であるという認識があったと思います。


しかし実際に現場でなされる作業は、相当簡素化された場合は例外としてそれほど単純ではなく、作業をすべて期待された通りに行うことがフィットするとは限りません。


なぜならWAIは作業単体における行動に着目しがちなので、実際に現場で変化していく状況が作業のプロセスにどのような影響を与えるのか、そこまできっちり想定していない(想定し得ない)からです。


だからと言って望ましくない結果がもたらされる訳でもなく、大抵はうまくいっている。

その理由は、そこに関わる人間が現場の状況に合わせて適応的にパフォーマンスを変動させているから、つまりWAIの想定を踏まえつつ、それとは異なる状況にも柔軟に対応しているからなのです。


登山を例に考えてみると、準備段階で地図を見たり関連情報を収集したりしてそれなりに山行計画(登って下りてくるためのWAI)を立てますよね。

でも実際の山行(WAD)は計画通りのこともあればそうでないこともあり、ほとんど意識せずに行っている些細な対応も含めて、状況に応じて調整を行って山から下りてくる、というのが実情だと思うのです。


登山に限らず、不確実性を有する野外での諸活動は、WAI通りに事が進むように制約を課すだけではなく、WAIとWADが異なることもあることを受け入れ、状況に応じたパフォーマンスの変動を許容していくことが、現実味のある安全対策につながっていくのではないでしょうか。


パフォーマンスの変動は、それが望ましくない方向への変動であれば修正するように、それが望ましい方向への変動であれば促進するように管理されるべきです。


パフォーマンスの変動を場当たり的なものにしないためにも、パフォーマンスの変動は避けられないことであり、必要であるという認識を持ってそれを監視し、マネジメントしていく姿勢が求められると思います。



【「おおよその調整」を洗練させるために】 パフォーマンスの変動で実際に行われている調整は、綿密にというよりは「おおよそ」のものとして行われることが普通です。

そしてこの「おおよその調整」こそ、物事の大部分がうまくいく(時にうまくいかなくなる)起点になると考えていいと思います。


物事がうまくいくことを確かなものにするためには、この「おおよその調整」を洗練させることが大切です。


そのための最初のステップは、物事がうまくいく、あるいはうまくいくかもしれない理由について考えてみることです。


通常は「うまくいっている」理由なんてそう考えませんね。「うまくいかない」理由を考えることのほうが多いはず。でも敢えて「うまくいっている」理由について考えてみる。そうすることで、うまくいくためのコツのようなものも見えてきて、それが「うまくいくこと」を確かなものにしていく。


そして「うまくいっている」理由について考えてみることは、物事がうまくいかない、あるいはいかないかもしれない理由について基本的・多角的に理解していく一助にもなるので、そのことが「おおよその調整」を更に洗練させていくと思うのです。


「うまくいくこと」も「うまくいかないこと」も、そもそもの起点は一緒、「おおよその調整」をどうするかが運命の分かれ道、というのは少し大袈裟かもしれませんが、調整がいい感じで進んでいるのであれば油断せずにそれを継続し、何かよくない感じがするのであれば早めに修正すればいいのです。


物事が少しずつ悪い方向に進んでいるときは、それを認めたくない心理が働くことがあります。それを認めてしまうと行動を起こさなければならない、それは面倒、だから気づかないふりをしてしまう...。


このような「正常性バイアス」と戦うためにも予見的な対応を意図することも含めて早め早めに「おおよその調整」を始動させること、 その調整がもたらすことに敏感であり続けることが大切だと思います。



【まとめとして】 今回の主張は以下の3点、 ・WRMで何を得たいのか、どうありたいのか考えてみる. ・WAIとWADが異なることもあること、パフォーマンスが変動することを許容する. ・うまくいく理由を考え、おおよその調整を洗練させていく.


言葉足らずでわかりにくい部分もあったと思いますが、

その重要性について言及した次第です。


WRMの舞台となる野外は、不確実性を有するもの、 それが魅力でもあり、そのリスクマネジメントも一筋縄ではいかないもの そのことに自覚的であること、そういう感覚を持ち続けながら、

これからもWRMらしいWRMについて考えていきたいと思います。



参考文献: ・エリック・ホルナゲル「社会技術システムの安全分析 -FRANガイドブック-」海文堂出版,2013年. ・エリック・ホルナゲル「Safety-Ⅰ & Safety-Ⅱ -安全マネジメントの過去と未来-」海文堂出版,2015年. ・エリック・ホルナゲル「Safety-Ⅱの実践 -レジリエンスポテンシャルを強化する-」海文堂出版,2019年.

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