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執筆者の写真Masao NAKAMURA

野外活動における救急法の考え方

更新日:2023年4月8日



【救急法は雨具のようなもの】


 野外活動は、多くの現代人にとって非日常的な活動であり、予測が困難な怪我や病気、事故などが発生することがあります。また、自然度の高いフィールド内では、医療機関への移送に時間がかかる場合も少なくありません。


 野外活動における怪我や病気等には、現場で対応できるものから、医療機関への引継ぎを要するものまで様々なレベルがあります。いずれのレベルでも、現場での応急処置すなわち救急法が適切なものであれば予後の回復によりよい結果をもたらすことができるのです。


 救急法とは雨具のようなものです。野外活動ではどんなに天気が良くても雨具は持っていけ、という教えがあります。野外では天候が急変することが間々あるので、念のため雨具を持っていくのです。雨が降らなければ雨具の出番はありません。それでも、雨が降ったとき、雨具は重要な装備のひとつになります。救急法も出番がなければそれに越したことはありませんが、いざというときの重要な備えとなるのです。




【野外活動における救急法の考え方】


 一般に救急法には「病気や怪我等に対する処置」というイメージがあるようです。実際、救急法の多くの部分は事後の対処法ということになりますが、救急法を広義にとらえるならば、怪我や病気等を未然に防ぐための知識・技術もその中に含まれるのではないでしょうか。「予防に勝る救急法なし」という言葉からもうかがえるように、優れた応急処置もその怪我や病気等を未然に防ぐことができれば出番がなくて済むのです。ただし、残念なことに万全な予防策というのはあり得ません。予防に力点を置くとともに、万が一の際の対応を準備することが重要になってくるのです。


 このようなことから、野外活動における救急法の要点は、病気や怪我等の予防と事後の対処とに集約することができます。予防については、野外活動特有の危険を認識することも必要です。活動の内容や程度、参加者の危険予見・回避能力等によって認識すべき危険は異なりますが、見る眼、察する感覚を高め、有益な対策を講じることが肝要であるといえるでしょう。先例に学ぶこともひとつの方法です。


 事後の対処については、適切な応急処置のみならず、医療機関への連絡・移送方法等も検討する必要があります。これらも野外という環境の制約を考慮した準備が求められます。「まあ何とかなるだろう」ではなく「何とかする」手立てを考えましょう。現実味のある準備をしなければなりません。




【リスク・マネジメントとしての救急法】


 救急法を身に付けていること、すなわち病気や怪我等の予防について理解し、そしていざというときに対応できるという自覚は、よりよい野外活動を進めていく上で大きな自信となります。また救急法はリスク・マネジメント(活動に伴う様々な危険を最小限に抑える管理運営方法)の観点からも、その重要性を容易に理解することができるでしょう。


 あなたがもし野外活動を提供する側であれば、スタッフトレーニングの一環として救急法を取り上げることも重要です。例えば、次のようなシナリオ:「あなたは数名の子どもたちとハイキングに出かけました。林の中を歩いていると、先頭の子どもが大型のハチに腕を刺され、大声で泣き出しました。近くにはまだ数匹のハチが飛んでいていて『カチカチ』と威嚇(いかく)音を出しています... 」を提示し、その対応策(優先すべきことや、してはいけないこと等)について話し合ってみて下さい。予防策も検討してみましょう。緊急時の対応やその予防についてコンセンサスを得ることは、スタッフのチームワークを高めることにもつながります。


 想像してみて下さい。事故が起こらないことがどんなに素晴らしいことか。そして万が一事故が起きたとしても、それに対応できることがどんなに素晴らしいことか。救急法を身に付けることは、それなりの時間と労力を必要としますが、野外活動の可能性を高める意味においても、その価値は大いにあるといえるでしょう。


            2001年2月(社)日本キャンプ協会「キャンピング」79号より.

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